今シーズンのディレクション アソシエイト・アーティスト

キラリふじみとは

芸術監督 多田淳之介

希望

 自分が初めて富士見を訪れたのは2003年2月、開館して一年も経たないキラリふじみは駅からの道も複雑で、バスも1時間に1〜2本、池袋から30分にこんな僻地があるのかと驚きました。あれから15年、少しずつ富士見の景色も変わり、東京の若者だった自分も富士見で子育てをする父親になりました。そしてキラリふじみで出会ったたくさんの子どもたちの成長、地域の一時代に立ち会えた幸せを感じています。そして当然これからも時代は流れ、変わり、この土地で人も街も育ち続けるのでしょう。

 どんな時代も人が育つために必要なのは希望です。かつて私たちは家族、友達、先生、地域の人々から、そして様々な芸術作品から、ものさしの多様さ、希望を学び育ちました。しかしいつの間にか大きな一つのものさしに合わせることに希望を抱き、それが育つことだと信じるようになりました。そして時代は変わり、今、私たちは、この世界のどこかに自分の居場所を見つけられることを希望と呼びます。大きな一つのものさしに合わせる時代は終わり、自分に合ったものさしを見つける時代になりました。

 劇場には古今東西の人類が生んだ、こんな目盛りに合わせて生きていくのは不可能だというものまで、無数のものさしとの出会いがあります。そしてそれぞれ違う目盛りを持つ人たちが出会う場でもあります。私たちは普段の生活では他人の目盛りとの違いに苦しんだり、違いを認められないこともあります。しかし芸術はその違い、姿も、声も、描く絵も誰一人同じではないことから始まります。それは全てのものさしを認めること、全ての人にとっての希望です。そして他人のものさしの魅力にも気づかせてくれます。芸術は、ものさしの違いを生きる希望に変えられる、それは地域にとっては、地域のものさしを増やすことにもつながります。

 開館以来、開館前からもキラリふじみには、子どもも大人もアーティストも市民も、様々な人たちがたくさんのものさしを持ち寄ってくれました。だからこそ、地域にたくさんのものさしがある豊かさ、それがここで暮らす希望であり、その希望で人が育ち、人がまた地域を育てる、芸術を通じてキラリふじみはそんな地域の夢を描き続けます。2018年度も、これからもずっと、キラリふじみが見せる希望にご期待ください。


館長 松井 憲太郎

Same! Same! But different!

 昨秋、アソシエイト・アーティストの田上豊さんと、2019年に予定しているフィリピン教育演劇協会(PETA)と当館との共同制作作品の準備のため、マニラにあるPETAの本拠地を訪ねました。表題の“Same! Same! But different!”は、私たちがPETAの若手メンバー育成のワークショップを見学した際に、進行役や参加者がくりかえし口にして、強く印象に残った言葉です。

 PETAは1967年の創立以来、フィリピンの民衆の生活に深く根ざした劇作品をつくり続け、またフィリピンのみならず東南アジア全域で演劇ワークショップの活動を展開していきました。その中で、人々の間に存在する共通性と、他方で、文化的かつ個的なバックグラウンドの多様さから人々の間に生まれる差異や距離に直面し、それを真摯に自らの演劇創造を支える二極の座標軸として組み入れていった全過程が、この“Same! Same! But different!”というひと言に凝縮されていると感じられました。

 ――多様な個が集まることでひとつの共同性が生まれ、ひとたび形作られた共同性がさらなる個の多様性を涵養していく――。

 キラリふじみは今シーズン、これまでと同様、またPETAとも相通じる姿勢をもって、人々が育む共同性と多様性、そしてそのダイナミズムに着目したプログラムに取り組んでいきます。

 多田淳之介芸術監督は、韓国の演劇人との共同作業で画期的な成果をあげた『カルメギ』と、インドネシアとマレーシアの演劇人との新作創造という、二つのコラボレーション作品を私たちに提示してくれます。また、彼がカンパニーディレクターを務めるリージョナルカンパニーACT‐Fは、地域で暮らすさまざまな人々のもとへ、多彩な舞台芸術のプログラムを届けていきます。

 アソシエイト・アーティストの永井愛による新作上演、田上豊による二つのレパートリー作品の一挙上演、矢野誠が音楽監督を務め二世代のアーティストが競演する『キラリ音楽祭』、白神ももこが多様なアーティストを招聘する『ダンスカフェ』など、さらにはアーティストと市民、市民と市民が協働する『サーカス・バザール』や『ふじみ 大地の収穫祭』と、キラリふじみ以外ではけっして体験することのできない、個性豊かなプログラムにご期待ください。


アソシエイト・アーティスト

キラリふじみは、5人のアソシエイト・アーティストと舞台芸術の創造を中心としたプロジェクトに継続的に取り組んでいきます。