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2019年02月20日 - 『Mother-rive Homing』&『Mother-rive Welcomeー華麗なる結婚ー』:作・演出 田上豊インタビュー公開!

7年前から始まった今シリーズ。一作目の『Mother-river Homing(マザーリバーホーミング)』は4度目の上演、二作目の『Mother-river Welcome~華麗なる結婚~(マザーリバーウェルカム)』は2度目の上演と、何度も繰り返されています。キラリ☆ふじみ(以下、キラリ)といえばこのシリーズ、とも言える作品となってきました。

今回は初めての2作同時公演です。上演に込めた思いを伺いました。

■このキャストで観られる最後になるかも

一作目『~Homing(ホーミング)』は4度目、二作目『~Welcome(ウェルカム)』は2度目の上演ですね。

お客様の中には「キラリっていつもこの作品をやってるよね」と思っている方も多いのではないでしょうか(笑)富士見市民の方に親しんでもらいやすい作品をと、誰にでも共通する『家族』をテーマにしたシリーズ作品ですが、何度も再演を重ねてきたことで、地元の方には「キラリに行けばあの家族に会える」と思ってもらえていたらいいなと思います。“板倉家”を舞台に、一作目は「実はもうひとり兄弟がいた!?」という話で、二作目は5年後の「結婚」をテーマにした話。どちらも久しぶりにご覧になる方は「そうそうこれこれ!」と馴染み深い気持ちでしょうし、初めてご覧になる方には純粋に楽しんでいただければ嬉しいです。


Mother-river  Homing(2015年)


Mother-river Welcome-華麗なる結婚-(2016年)

初の試みとして、今回は2作同時上演に挑戦しています。その意図は?

次にやるなら同時上演だと決めていたんです。映画のシリーズものはどの作品から見てもいいという楽しみ方がありますけれど、演劇にもそれが可能なんじゃないかという試みです。一作だけでも完結していますが、一作目から時系列で観ると「あの家族がこうなったんだ」と楽しめますし、逆の順番で観ると「この人は5年後にはいなくなるんだ」と切なくなりそうですね。どちらの楽しみ方もできますし、それぞれ独立した話なので、もちろん1作のみでもご覧いただけます。
実際に2作の稽古をしてみて感じたのですが、同じ“板倉家”という家族を描いているのに、人物写真を前から撮った時と横から撮った時のような違いがあるんです。2作とも観ていただくと、ひとつの家族を別の目線で見たことによる発見があって、面白いですよ。

今回の再演にあたり、作品に変化や特徴はありますか?

大枠は変わりませんが、ずっと出演している俳優は7年分の歳を重ねていますから、今がもっとも脂ののっているピークですね。再演のたびに少しずつキャストが入れ替わって変化を重ねてきましたが、ずっと出演している俳優がいることで繰り返し噛み締めてきた強さがあるなと思います。彼らが新しくキャスティングされた俳優のことをおおらかに受け止めてくれるので、その風通しの良さが作品の雰囲気にも出ています。
ただ今回、僕も俳優たちも前回の上演で決めたことをほとんど覚えていなかったんですよ!一作目『~ホーミング』は4年ぶり、二作目『~ウェルカム』もほぼ3年ぶりですからね。「このシーンはこんなふうにやっていた気がする……」と記憶を辿りながら、再構築しています。ストーリーは同じだけれど、今しか出せない今の空気感があるので、過去にご覧になった方もまた違う印象を受けるでしょうね。
でも、次の再演は少し時間を置くことになるでしょうし、その時には、初代の俳優は一新されるはず。今回はオリジナルキャストの出演が観られる最後の舞台になりそうです。


出演者一覧

今シリーズにとって、ひとつの節目にあたる上演なんですね。

はい。しかも、はからずも平成最後の上演です。平成から見ると、昭和の家族を描いた今作は「ひとつ前の世代」の懐かしい風景ですが、今後再演される時には年号も変わって「ふたつ前の世代」の作品になるでしょう。“時代を描く”という意味でも節目の時期なので、少し感慨深いですね。


■今回、演出方法が変わった

2作同時に演出に取り組んでみて、いかがですか?

脚本を書いた時は意識していなかったのですが、同時に両方を演出してみると、つくり方が違う2作なんだなと改めて発見しました。
『~ホーミング』は物語の骨格がキッチリしていて、あまり変える余地がないんです。セリフや登場する順番など変えると成り立たなくなるくらい、話が組み立てられています。そのため、脚本に沿って精度を高めるように稽古しています。一方の『~ウェルカム』は、当時はガッチリと構造を組み立てていたつもりだったのに自由度が高い。稽古のなかで新しいことに挑戦してみたりと実験を重ねています。この違いを活かして、あえて2作の演出方法を変えて、差別化をはかっています。
この違いは、最初に言ったように過去の演出を忘れていたから気づいたこと。今回の上演では、自分の書いた作品を客観的に演出しているので、新しい感覚で稽古に臨んでいます。過去の上演を観たお客さんも、きっと同じ作品でも受ける印象が違うかもしれません。

新しい感覚とのことで、これまでと演出の違いはありますか?

俳優の意見を聞くようになりました。舞台上での立ち位置だけは先にざっくりと決めてから、「なにか気になるところはない?」「ここはこんな動きもできる?」と俳優に尋ねています。
これまでの僕は「そこで2秒止まって」「こっちに動いてみようか」と、ガチガチに俳優の動きを固めていました。でもそれでは創作の余白がない。もっと俳優のアイデアを拾いたいなと思って、質問するようになりました。すると、立ち位置は変わらないのに、その場で主導権を持っている人が変わったり、人間関係に変化が起きるんです。たとえば、テンポ感がないといけないからと食い気味で会話の応酬をさせていたシーンが、俳優にゆだねたらかなりゆっくりとした会話になって、それがすごく面白かった。僕が気づいていなかっただけでこの脚本にはこんな見せ方もあったんだな、と発見が増えました。今、その気づきが楽しくて演劇していますね。


稽古場風景 

演出に変化がうまれたのは、なぜでしょう?

まず、年齢の変化ですね。28歳で書いた脚本を35歳で演出しようとすると、やっぱりこだわるところも違いますよ。当時は、俳優に「このシーンはどうなってるんですか?」と聞かれたら、明確に答えるのが演出家の仕事だと思っていました。でも今は「わからない」とか「ちょっと考えてみてもらっていいですか」と任せたりします。すると俳優も責任感を持って自分で考えてくれるようになってきました。
そう思うようになったきっかけのひとつは、一昨年の9月に『僕の東京日記』を上演した時、脚本を書かれた永井愛さんに「稽古の終盤になると俳優が役の専門家に変わっていく」と言われたことです。演出家は作品をコントロールしているようで全体のバランスを見ているから、ひとつの役のストイック度は俳優の方が高い。よし、じゃあ俳優に聞いてみないとなと思ったんです。すると俳優は「田上さんはそう言うけど、僕はこう思います」と言ってくれるので、任せてみる。そうしていくと稽古場の雰囲気が「自分たちで進めなきゃいけないんだ」という前のめりになってきました。
こうやって俳優に主導権を少しずつ委ねることができるようになったのも、自分で書いたセリフを覚えてないからです(笑)なぜこのセリフの次がこのセリフなのか、改めて考えなおしています。忘れるってこんなに楽しいんですね。

■富士見市に住む“板倉家”に遊びにきて

ひとつの劇場がレパートリー作品を持って何度も再演することは、日本では珍しいですね。もともと計画していたんですか?

初演の前から、キラリの方とは「再演ができるような作品にしよう」とは話していましたが、まさかこんなに短いスパンで上演が繰り返されるとは思いませんでした。上演のたびに地元の方や、遠くからも観に来てくださるし、初演から7年積み重ねてやっと、キラリ専属の“家族劇シリーズ”のレパートリー作品として定着してきたのかな。ここに来ると「あの家族に会える」と思ってもらえたら嬉しいです。熊本弁のお芝居だけれど、この作品に登場する“板倉家”が、富士見市に住んでいるひとつの家族だと感じていただけるような、市民の無形の財産になりたい。富士見市にとっての『北の国から』や『寅さん』のようになれればいいですね。

富士見市民にとって“板倉家”は「ご近所さん」のような存在になるといいですね。

そうですね。僕たちも、再演だからといって何度もご覧になる方を飽きさせないように新しいことをする必要もない。いつだって初めてのお客様はいるし、あえて変えなくてもその時の出演者・スタッフでしか出せない空気もあります。みなさま、ご近所の“板倉家”に遊びにくるような感覚で劇場に来ていただけるといいですね。


稽古場風景 

市民と劇場を繋ぐ作品なんですね。今回、観客と劇場の距離を近づける試みとして、稽古場見学やバックステージツアーも開催されていますね?

バックステージツアーは公演期間中に実施するのですが(※要予約、申し込み順)、稽古場見学はすべて開催終了しました。稽古中なので、作品としては中途半端な状態です。劇場や劇団によっては「作品の途中段階は見せるものではない」という考えもあるけれど、僕は積極的に見ていただきたいですね。稽古場に人が来ると、いい緊張感があるんですよ。俳優もいつもより格好つけた演技をしたりして、それが新しい演出に繋がったりもします。
見学に来られた方からは、「同じシーンをこんなに何回もやるんだ!」という感想をいただきました。演劇を創られたことがない方にとっては驚きですよね。その繰り返しの中でも、「あそこはこういう風に変えてみよう」というダメ出しに対して「本当だ。今回はちょっと変わってる」という些細な発見も楽しんでいただけています。こうやって演劇はできているんですよということを知っていただけるし、僕たち創り手が当たり前だと思っていたことがそうでないと気づくことも多いので、とても有意義な時間です。

■いずれは3部作同時上演も

4月からキラリ☆ふじみの芸術監督になりますが(※白神ももこと共同)、そのことが今作に影響していたりしますか?

ありますね。2008年からキラリ☆ふじみと関わらせていただいていますが、そこに一区切りつく時期です。そのタイミングで、総決算ともいえるこの2作品を上演できることはとても光栄ですね。僕はキラリでこんな作品を作ってここまで来たんだなと感慨深いです。箱根駅伝の往路が終わるような、大きなピークにいるような贅沢な感覚です。

芸術監督就任以降は、この“家族劇シリーズ”はどのような展開になっていくのでしょう?

具体的なことはまだ想像できていません。けれども、もともと三部作のつもりなので、最終章を書きたいですね。“板倉家”の家族がもっと若い時の話や、もっと少人数の家族構成の話、子どもが出るような話など、アイデアはいろいろあります。焦って創っても良いものはうまれないので、「あ、今創るべきだな」と感じたタイミングでみなさんにお披露目できるでしょう。その時には、三部作同時上演もしてみたいですね。


(聞き手 河野桃子)

 

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