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2022年11月11日 - デフ・パペットシアター・ひとみ『百物語』座談会

12月24日(土)・25日(日)に開催するデフ・パペットシアター・ひとみ『百物語』。

今回は、当館季刊誌の「HOTキラリ10月号」に掲載した座談会の様子を更に詳しくお届けします。

 

 

デフ・パペットシアター・ひとみ『百物語』

不思議なモノたちが飛び回る作品世界はキラリにぴったり

足立沙樹×吉村衣世(デフ・パペットシアター・ひとみ)×河合祐三子×白神ももこ

 

  

表現のための「発明」から始まった創作

 ――まずはこの作品の始まり、題材を選んだ経緯から伺えますか?

吉村 私たち「デフ・パペットシアター・ひとみ」は聴こえる人と聴こえない人が一緒に創作活動をしている人形劇団で、42年前の創立以来、作品づくりはいつもメンバーでフラットに話し合うところから始めるのです。杉浦日向子さんの『百物語』を提案したのは聾者のメンバー。内容の面白さはもちろん、当時(2020年冬)は新型コロナウイルスによる感染症禍が始まったばかりの頃で、目に見えない・解らないモノに対し私たちは翻弄されていました。しかし『百物語』の中に描かれる江戸の人々は、それら見えない・解らないモノに動じることなく、むしろすんなり受け入れてしまう。そんなタフさを見習いたいと思うと同時に、今の私たちならば、どのようにこの『百物語』に向き合うのかが興味深く、題材にすることにしました。

白神 デフパぺさんからお話しをいただき、日常に地続きのところから不思議なことが起きたり、奇妙なモノが現れたりする杉浦さんの作品世界は、私がモモンガ・コンプレックスでつくる作品に重なるところが多いとすぐに思えました。もともと妖怪は好きで、図鑑も手元にあるくらい(笑)。「よくぞ私を、この題材に出会わせてくださったなあ!」と最初から嬉しくなりました。

 また振付やステージングで他の劇団さんに参加することはあっても、演出家としての参加は初めてのこと。台本作りも初めてやりましたし、デフパぺさんでは人形や道具がないと稽古できないので、人形作りと美術や仕掛け、演技までを並行して進めていくんですよね。皆さんのアイデアをたくさんいただきながらの稽古場は、毎日演劇の実験をしているようでとても楽しかったです。それにデフパぺさんのこれまでの創作に比べても、ここまでバラエティに富んだ魅力的な客演の方が多くいらっしゃるのは珍しいそうで、制作・吉村さんのプロデュース力が素晴らしいと思いました。

吉村 劇団全員で決めたことですが、そう言っていただけて嬉しいです。

 

――キャストのお二人が、創作を振り返って記憶に残っていることはありますか?

河合 デフパぺさんに初めて参加させていただいたのは、私が日本ろう者劇団に居た頃の『真夏の夜の夢』(1993年)で、それが人形との初めての共演。その時、人形たちの中に魂があり、その魂が自分と通じ合うようにも思えたんです。

 『百物語』は人形たちとの二度目の共演ですが、パワーアップしたというか、初演の時から相手が人形であることを忘れて普通に目と目が合い、手話で会話しているような感覚になっていったことを覚えています。聾者の私は後ろに誰かがいても気づきにくいものですが、人形が背後にいることがわかるんです! そんな不思議な交流が、稽古や本番の中にたくさんありました。さらに人形たちと深く交流できる再演の機会をいただき、期待が膨らんでいます。

 

――まさに『百物語』の世界観ですね。初演時を振り返り、足立さんの印象に残っているのはどんなことでしょうか。

足立 私は稽古初日、白神さんの呼びかけのもとメンバーが持ち寄った「家の中や身の回りにある気になる道具」を使って、自由に「実験」を重ねていく時間がとても印象深かったです。全員が本当に思い思いの道具を持ち寄り、次々に、この作品でしか使えない道具が発明され、稽古場にそれらが溢れていく。一瞬、人形劇の創作現場であることすら忘れそうなほどでした(笑)。白神さんが美術に明るい方だったこともプラスに働いたと思いますし、私は元々舞台美術を学んでいたので、そんな自分の経験も活かせて、本当に楽しかったです。

吉村 それに加えて白神さんは聾者かどうかに関係なく、「皆さんが得意なことを見せてください」というように、バラエティ豊かなカンパニー・メンバーの個性を引き出す演出をしてくださるので、創作から本番まで本当に刺激的な時間でした。

白神 人形劇初心者の私は、「人形劇をつくり・上演する方たちのこだわりとは何か」「人形にしかできないことってなんだろう」などと考えるところから創作に入っていったので、「皆さんの力やアイデアをとにかく借りよう!」という稽古の仕方しかできなかったのが正直なところです。デフパぺさんのスタジオで稽古をさせていただいたのですが、他の作品で使った道具などもどんどん借り出し、劇団の備品も使い放題という贅沢な環境を与えていただいて(笑)。次第に人形の構造や動かし方には人間とは違う制約と同時に自由さがあり、俳優やダンサーさんに振り付ける時とはまた違うことが試せたり、学んだりできると気づくことができて。結果、演者も観客も想像力全開になる内容の作品にすることができました。『百物語』は大人や子どもなど世代に関係なく楽しめるので、キラリふじみのお客様のお好みに絶対合うと思うんですよね。

河合 私は8月末に上演される『モガ惑星』にも出演させていただくので、今稽古中なんですが、ご一緒しているキラリ☆かげき団の皆さんや劇場の雰囲気などから、『百物語』とキラリふじみとの相性の良さを感じています。再演でさらに練り上げられた作品を、是非お愉しみいただきたいです。

 

劇中には人形劇ならではのこだわりが一杯

 ――不思議な動きや質感で、見ただけでは素材がわからないような小道具もたくさんありました。それぞれに思い入れのある道具や効果についてもお話しいただけますか?

河合 足立さんは道具やもの遣いが多かったですよね。

足立 作品の終盤に登場する“謎の白い四角いモノ”は、『百物語』の中でも大変な発明品だったのではないでしょうか。一辺の長さが少し引っ張るだけで変えられ、そこから視覚を惑わせる表現が生まれる。どこにも売っていない自慢のデフパぺ・オリジナルです。

河合 稽古に行くたび「コレ、何に使うの?」という道具が増えたり、変更になっていたりして、それがいちいち楽しくて。私は劇中では「語り」の役割を担っていて、お客様と同じ目線にもなる瞬間があり、“謎の白い四角いモノ”は同じ舞台袖から見ていてもゾワゾワする不思議さで、別の世界から来たモノのように感じました。

あと、ストリングカーテン(規則正しく糸や紐を並べてカーテン状にしたもの)越しに見せる、俳優と人形の影の演出も強く印象に残っています。不思議な美しさでした。

 

――舞台美術はストリングカーテン以外、非常にシンプルなものでしたがどんな狙いがあったのでしょうか。

白神 家の内外など、エピソードごとに情景が変わる内容でしたし、生身の俳優と人形が自在に動き回れる空間にしたかったんです。ストリングカーテンは面にも見えて影なども映せると同時に、通り抜けが自由なので空間を制限しないし、身体の一部だけ見せたりもできます。舞台美術家の長峰麻貴さんの提案ですが、作品世界を膨らませる素敵なアイデアをいただけたと思っています。

 

――個人的には、人形がひたすらに走る場面がとても印象的でした。走る人形は一点を動かないのに、立ち木などの小道具を俳優が持って動かしたり、人形の角度を変えることで周囲の風景がどんどん変わって走り抜けていく様になっていくという。

河合 私もあのシーン好きです!

白神 あのシーンはかなりこだわりました。人形の足を動かしていたのは足立さんでしたよね?

足立 そうです。

白神 上半身と下半身を二人で分けて遣っていただいたのですが、人はかかとから地面につくけれど、人形は普通つま先からつく動きなのだそうで。でも、リアルな走りに見せたくて、そのための動きを考えていただいたり、加速や減速をどうすれば表現できるか、呼吸を感じさせる身体の動きがどんなものかなど、たくさん知恵を絞っていただいて、あの場面ができました。

 

――文楽を観ていても思うのですが、人形遣いの方々は動きの大小に関係なく、大変なエネルギーを必要とされているのではないでしょうか。

白神 おっしゃる通りで人形や小道具を遣っている様子が、ダンスのように見えることもありました。足立さんは「炎」を表現する“まとい”のような形状の道具も遣っていて、あれを扱うには体幹がしっかりしていないと無理だろう、と思ったり(笑)。過去作品の映像を拝見した時、舞台上を走り回るなど身体を使った表現も多く見られたので、「フィジカルが使える方たちだ」という前提で色々お願いしてしまいました。

足立 あの「炎」は巨大で、確かに手こずりました。再演に向けて筋トレしようかと考えていたところです(笑)。

 

――河合さんは再演に向けて今、どんな想いでいらっしゃいますか?

河合 再演のお話をいただいた時、出来上がった作品にもう一度向き合うというより、『百物語』という作品を介してまた新しい表現や方法を見つけられるのでは、という気持ちがまず湧いてきました。なので今は、キラリふじみで上演できることが楽しみで仕方ありません。

白神 キラリふじみでは、これまで人形劇の公演はあまり行われていなかったので、地域の観客の皆さんには新たな出会いの機会になるのではないでしょうか。『百物語』をきっかけに人形劇の奥深い世界に触れ、興味を持っていただけたら嬉しいですよね。それにデフパぺの皆さんや河合さんのパフォーマンスに触れることで、聴こえる・聴こえないに関係なく想像力を刺激できることや、言葉にしなくても伝わる表現があることを実感していただけると思うんです。

 今、河合さんにご出演いただく『モガ惑星』では、キラリ☆かげき団の方たちがサインポエム(手話をベースにした身体表現)を習い、声を出さずに身体で合唱するシーンもあるんです。二作を鑑賞して通じるところを感じていただけたら、コミュニケーションの多様性にも目を向けていただけるのではないか、と。そうなればとても嬉しいのですが。

河合 かげき団は個性的な方ぞろいで、今の稽古もとても楽しいです。

 

『百物語』キラリふじみ版はあり!?

 ――作品は目に見えないモノ、不思議な世界を題材にしていますが、皆さんはそういったものを信じている、あるいは信じたいと思っていますか?

河合 初演の時、カンパニーの皆さんにお話しして、誰も信じてくださらなかったんですが、作品の中に懐中電灯の明かりで蛍を表現するシーンがあって。本番前、舞台袖に待機している時、カーテンにふわふわと光が出て、「白神さん、新しい演出をつけたのかな」と思って、「さっきの蛍、誰が光を出していたの?」と後で訊いたら、誰もやっていなかったということがあったんです。私はあの光を見て、「こんな素敵な演出も加わったんだ。よしやるぞ!」という気持ちになれたので良かったんですが、誰も信じてはくれませんでした(笑)。

 

――今作に、そんなエピソードがあったとは!

河合 私は、他の作品でも同様の経験があるんです。誰もいないはずなのに、人がいるように感じた、とか。『百物語』なら不思議なことが起きても当然くらいに思っていますし、今度は12月の公演なのでクリスマスの妖精・妖怪に会えるかな、と思っています(笑)。

白神 妖怪好きですが、私は不思議系のことを見たり感じたり全然できないタイプで。でも居るだろうとは思っているんです、存在するチャンネルが違うから見えないだけ。ラジオのチューニングのように、それが合うと見えるようになる。ただビビりなので、実際に会ったら怯えるだろうな(全員笑)。もし出会えたら、怯えつつも追い払ったり対抗したりはできないので結果、共存するタイプだと思います(笑)。

足立 私も自分では見えないのですが、子どもの頃から15年くらいクサガメを飼っていて。そのカメが、時々何かがあるように中空を見ている時があり、あれは絶対に「何か」が見えていると思っているんです。いつか、カメのチャンネルで見ることができたらいいんですが(笑)。

吉村 劇場などにいると、何か日常とは違う気配や空気をふと感じて、ゾクッとすることはあります。思い込みが激しいタイプなので(笑)、勝手に妄想して怖く…なることが多いんです。

 

――劇場や学校など、人の集まる場所は不思議なことも起きやすいと聞いたことがあります。キラリふじみには不思議な逸話などないんですか? 白神さん。

河合 キラリにもありますよ、不思議な気配。

白神 えー、私は感じたことないです。

河合 絶対います、でも悪い感じでは全然ありません。ふと影がよぎったり、“トントン”と身体を叩かれたりしていて、「話しかけたいのかな」と思っています。

白神 もしかしたらお客様や、ワークショップなどに参加してくれる子どもたちにキラリでの不思議体験の持ち主がいるかもしれませんね。

 

――そんな体験談をもとに作品にすることも、白神さんならできるのでは?

白神 「キラリふじみ七不思議」みたいな? それ、面白そうですね。ちなみに劇場の池にはカメがたくさんいるので、調べたら不思議系の話もいろいろ出てくるかもしれません。

足立 そんな、たくさんのカメが同じ方向を見ている様子は、想像しただけでかなりコワいです(笑)。

白神 あと会館の中央に広がるカスケード(水の広場)でコロナで休館になっている時に白蛇を見かけましたし、鶴瀬駅から会館までの道のりでも何かの気配をふと感じることがあります。改めて考えると、キラリ版の『百物語』もできそうな気がしてきました。

河合 『百物語』上演の際には、また新たな不思議に出会えるかもしれませんね。楽しみです!

 

執筆・取材 尾上そら(2022.8.22収録)

 

 

プロフィール

白神ももこ(しらがももこ)
キラリ☆ふじみ 芸術監督。振付家/演出家/ダンサー/ダンス・パフォーマンス的グループ「モモンガ・コンプレックス」主宰。全作品の構成・振付・演出を担当。無意味、無駄を積極的に取り込み、ユニークで豊穣な身体、空間を立ち上げる。
2017-2018年度セゾン文化財団ジュニアフェロー。
2019年4月より、当館芸術監督に就任。

 

河合祐三子(かわいゆみこ)
俳優/手話・身体表現ワークショップ講師。北海道札幌市出身 俳優(フリーランス)
北海道札幌市出身 俳優(フリーランス)2018年よりサインポエット(手話)と声の朗読、ダンスなどゆるやかに繋がり合うユニット「でんちゅう組」のメンバーになり、公演やWSなどに出演する。
手話表現・非言語表現ワークショップ講師、TA-net舞台手話の監修を務めるなど、多方面に活躍中。

 

足立沙樹(あだちさき)
デフ・パペットシアター・ひとみ 俳優。神奈川県川崎市出身。2015年多摩美術大学入学、劇場美術デザインを学ぶ。2017年から約1年半に渡りドイツ・ベルリンへ単身移住。絵画や陶を中心とした作品製作に取り組む。2021年入団。俳優業の傍ら、自身の創作活動も続けている。

 

吉村衣世(よしむらいよ)
デフ・パペットシアター・ひとみ 企画制作。学生時代に人形劇に出会い、言葉の違いを超えた表現力に魅了される。その後自身で作品創作を続けたのち、企画制作として2014年よりデフ・パペットシアター・ひとみに参加。作品企画のほか、子ども達にむけたワークショップ等企画する。

 

 

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