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2019年06月03日 - キラリふじみ×東南アジア⁼舞台芸術コラボレーションvol.3 日本・フィリピン共同制作 『KIN-BALL キンボール』:稽古場レポート

5月頭からキラリふじみにて『KIN-BALL〈キンボール〉』の稽古がはじまりました。
出演者12名のうちフィリピン人俳優5名は館の近くに滞在し、富士見市内で生活をしながら稽古をしています。
作・演出の田上豊は、これまでにもハンドボールなどのスポーツを題材にした演劇をつくってきました。
今回はキンボールスポーツを取り上げ、田上らしい笑いと涙と勢いのある舞台をつくります。
2カ国の俳優とスタッフが集い、巨大な“キンボール”をめぐって奮闘する稽古場のようすをお届けします。


舞台『KIN-BALL〈キンボール〉』とは?


  
 そこはまるで本物の体育館。フローリングの床には白・赤・青・黄・緑のビニールテープが貼られ、バスケットコートになっています。その床を挟んで見下ろすように、客席が向かい合って並んでいます。客席の一番前には青いパイプの手すりがあり、スポーツの試合を応援しにきたような気分です。
 登場するのは、日本とフィリピンの俳優たち。そして、直径122cmの巨大で派手なピンクのボール。彼らは、キンボールスポーツという実在の競技の選手達です。
キンボールスポーツ(以下、キンボール)は、4人1組の3チームがコートの中でヒットやレシーブを繰り返し、点数を競うカナダ発祥のゲームです。
物語では、世界大会を目指して、フィリピンの元オリンピック代表の女性たちがコーチとなり、日本の男性選手たちの再起をかけて指導することになるのですが……個性の強いメンバーたちは、言葉が通じないこともあってトラブルが尽きません。ケンカをしたりと大騒ぎ!果たして彼らはキンボール選手として強くなれるのか!?

  公演フライヤー  

キンボールを題材にしたことについて、田上は「まずフィリピン人俳優と日本人俳優のスタートラインを揃えたくて、誰も知らないスポーツを探しました。そのなかでキンボールを選んだのは、そのルールが魅力的だったから。レシーブの時に、味方の3人がボールに手を添えている状態でもう1人がボールを撃つんです。効率が悪いけど、みんなが協力しないといけないのは演劇みたいだなと思いました」と、キンボールと演劇の親和性を感じたと言います。

 フィリピンとの共同創作にあたっては、長い時間をかけて準備してきました。2017年3月に視察として東南アジアを訪れ、フィリピンのPETA(フィリピン教育演劇協会)と共同創作をすることが決定。田上と共同で台本執筆を担当するPETAのジェイミー・カタニャグが、それぞれ日本とフィリピンを行き来し物語の構成を決め、田上が戯曲を書きました。フィリピン人達の会話部分については、ジェイミーが英語とタガログ語で書いてくれました。それを翻訳しては修正して……の繰り返し。「書き上がらないかもしれない」という焦りを経て、やっと台本が完成しました。

 
日本とフィリピンが影響しあう「稽古場」
 
 この日行われた稽古は、午後2時から8時まで。シーンを順番に進め、テンポの良くないところを調整したり、動きの流れを確認します。フィリピン人俳優たちへの指示は、通訳さんが英語で伝えます。日本語、英語、タガログ語の混ざる賑やかな稽古場です。

  フィリピン人俳優たちはとても明るく、演技も迫力があります。日本人よりも大きな身振り手振りや表情ですが、それが自然で、言葉がわからなくても気持ちがよく伝わってきます。驚く時は目を?き、泣く時は本当に涙を流す……とても感情豊かです。

 田上は演出をしながら、フィリピンの俳優たちは『個々のキャラクターを大事にする』傾向があると感じているそうです。「彼らは役の流れや人生を自分で書き留めて、ひとつのキャラクターをどっしりとつくろうとします。一方で、日本の演劇は、シチュエーションや関係性をつくることを重要視することも多い。彼らの「役として生きたい」という思いも大事にしながら、こちらが表現したいこととも折り合いをつけていかなくてはいけません」。
 フィリピン人俳優たちと影響しあうかのように、日本人俳優たちも、より自分の役と向き合い、個性が強くなっていきます。「自分の役はどうしたら面白くなるか」「個人が魅力的でありながら、全体のバランスをとるにはどうすればいいか」……試行錯誤を重ねます。

 国を超えた舞台づくりは、田上にとっても初めてのこと。日本人と同じように接していたら、うまくいかないこともあります。「日本人はなんとなく察することでも、しっかりと言葉にしないと伝わりません。稽古ではふだんの演出よりもよく話を聞き、丁寧に説明することを心がけています。たとえばフィリピンの俳優に「そこはもっと声を大きく高くして」と演出をつけると「なぜ?」と質問されることがあります。それに対して納得してもらえるように「このシーンではあなたの役が高揚した様子を表現したい。なぜ高揚したかというと、こういうことに影響されたからで……」と演出の意図や役の感情の流れを、具体的に細かく説明します。そうやって対話に時間をかけながら、最終的には僕が「こうしましょう!」と決めることで、俳優の戸惑いをなくして道筋をつくっていきます。お互いに理解することが一番の目的というよりも、理解するように努めるから話しましょうと、互いに歩み寄るというスタンスでしか答えは出せないと思っています」。

 休憩時間や稽古前後には、明るい冗談が飛び交います。英語が話せない日本人俳優たちも、ジェスチャーでツッコミを入れたりと、笑顔の溢れるチームです。出演者からは「こんなに楽しくていいのかなと思うほど楽しい!きっとこの楽しさはお客さんにも伝わるはず」との声のとおり、稽古が進むほどにチームワークが増していくのを感じる稽古場です。
 
「楽しい稽古場ですし、作品自体も歌や踊りもあって明るいです。けれどもフィリピンの方々の「ハッピーエンドで綺麗にまとめよう!」という主張には負けないようにしています。彼らは、互いに理解しあって幸せになる結末が好きなんです。フィリピンは、最後に歌って観客みんなで手拍子するような舞台が多いようで、稽古でうまくいかないシーンがあると「お客さんに手拍子を求めたらどうだろう」というアイデアを出してくる(笑)でも僕が描きたいことは100%のハッピーエンドではない。それぞれが僕のやり方に譲歩してくれているので、自分の演出があたりまえだと思わないようにしないといけないな、とは常に思っています」。
 

キラリふじみを、楽しい舞台が観られる場所にしたい

 今回の舞台は、キラリふじみと国際交流基金アジアセンターが主催する、東南アジアとの舞台芸術コラボレーション第3弾です。これまでには白神ももこ、多田淳之介が演出をつとめてきました。
 文化が交錯する企画では、どうしても歴史背景と芸術表現がバッティングすることもあります。『KIN-BALL』の作中でも、フィリピンが日本軍に占領されていたことにこだわっている登場人物が出てきます。田上は2つの国の歴史を踏まえた上で「渦巻いているものは複雑だけれど、大事なのはお客さんに楽しんでもらうこと」と言いきります。

 「フィリピンの人が来た!」「国際交流だ」と作品に興味を持つ方もいると思いますが、僕は、キラリふじみに来れば楽しい舞台が観られる環境をつくりたい。舞台が終わる頃になってやっと「そういえば半分くらい海外の人が出てたなあ」と気づくくらいでいいかな。企画としては『多国間交流』という大枠があるけれど、創作のうえでは、国籍ではなく一人の俳優として向かい合ってクリエイションをすることが大事だと思っています」

 また、今作がキラリふじみ芸術監督になって一作目になることについては、あまり意識していないと言います。「むしろ、舞台をつくるのに夢中で忘れていたくらいです。僕は、富士見市に住む人や、キラリふじみに来る人に、ただ楽しんでもらいたい。それがここで作品を創ることの一番の意味だと思っています」。

 (レポート:河野桃子)
写真:松本和幸

キラリふじみ×東南アジア=舞台芸術コラボレーションvol.3
日本・フィリピン共同制作『KIN-BALL』
公演日 2019年6月6日(木)~9日(日)
■公演の詳細はこちら

出演者(プロフィールは画像をclick!)

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