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2021年11月04日 - 前・現・次期芸術監督とキラリに縁のあるヒロインたちの対談

12月4日(土)に初日をむかえる、白神ももこ、田上豊の二人の芸術監督と前芸術監督の多田淳之介さん、3人の芸術監督が“ヒロイン”をコンセプトに創作する『Are You Heroine?ん?』。

今回はこの3人の芸術監督と、これまでの当館事業に生き生きと参加する姿がとても印象的な、市内で芸術活動を続ける、キラリに縁(ゆかり)のある、素敵なヒロインとの対談をお届けします。

 

■前・芸術監督 多田淳之介×富士見市内の音楽家 木ノ脇香織さん

 

──木ノ脇さんがキラリの事業に参加されたのは、劇場付属のカンパニーACT-F(アクトエフ/2017~2019)でした。1年ごとの募集でしたが、3年間すべてに参加されましたね。

木ノ脇 もともとキラリには一市民として「この演奏会は良さそうだな」と行くくらいでした。音楽をしていることもあり、コンサートなどは興味があるんです。ですがACT-F(アクトエフ)の募集を見かけて「なにか変わったことが始まる!」と興味を持ちました。でも、なにをやるのか、私が参加できるものなのか不安があったのでしばらく迷いましたね。それでも勇気を出して飛び込んだのは、「もしかしたら自分の力がここで輝けるかもしれない」と期待があったんです。ドキドキしながら初日に伺ったら、初めてお会いする方ばかり30名近くもいて、「絶対に名前を覚えるぞ!」と頑張りました。

多田 面白い方々が集まってくださいましたね!僕がまだ知らないだけで、市民にはアーティスト活動ができる方がいるんじゃないかと思っていたので、嬉しい出会いが多くありました。

 

──ACT-Fはどのように立ち上がった企画なんですか?

多田 僕の芸術監督の任期はあと3年(3期目:2017.4~2019.3)だと決まっていたので、自分が辞めた後も市内で続いていく活動があればいいなというのが始まりでした。地域の劇場としても新しいことがしたかったし、また、劇場に来た人が自分の周りの人を楽しませて、もっと市内に楽しいことが増えるといいなとも考えていました。それには、市民の方に活動そのものを作っていってもらおうと。

木ノ脇 でも、何をやるのか、どうやるのかもわからなかったんですよ。最初に古民家コンサートを行うことになったんですが、誰が主導してどう進めていくかが決まらない。やっと進んでも「いや、このままではちょっと」と意見が出て止まってしまう。

多田 僕が決めて仕切るわけじゃなくて、皆で何をどうやるのかを決めたかったんですよね。

木ノ脇 そういうやり方に慣れていないから、最初はストレスがあったんですよ(笑)。でも、参加したからにはなにか面白いものを持って帰ろう、と。

多田 幼稚園や公民館で演奏する時は、すべて木ノ脇さんがピアノを担当されましたよね。木ノ脇さんなしではできなかった。でも、なにをやるにも大変でしたね。ハロウィンやクリスマスもイベントをしましたが、スムーズにいったものなんてあったかなぁ。

木ノ脇 誰かが道筋をつけてくれる場ではないんだなとだんだんわかってきました。それってすごく大事なことですよね。私は学校で仕事をすることがありますが、最近は「先生がやらず、生徒自身に目標を決めてやらせる」という空気ができていています。でも生徒に任せるのは先生としては怖い。多田さんはよくやったなと!

多田 僕はなにも(笑)。ユニークな方々が参加されていて面白かったです。都内から参加する若いアーティストもいて、彼らにとってもなかなかできない経験だったと思います。

木ノ脇 最後に活動発表のお祭りをする時は、大学の学園祭で泊まり込みの作業していた事を思い出しました。すごく大変だったんです。だからこそ「よくぞやった!」と誇れます。でも結局一番嬉しいのは、本番が楽しいんですよね!お客様が楽しそうにしてくださるのを見ると「ああ、やってよかった!」と興奮します。そういうのってなによりのご褒美だったりしませんか?

多田 ね、やっぱりお客様の存在ですよね。

 

──3年間のACT-Fはどんな影響がありましたか?

木ノ脇 「どんな環境でもそれなりに作っていけるんだぞ」と逞しくなったのは、自分にとっての財産です(笑)。なにかを続けていくためのやり方と経験は得られたので、参加者によってはそれをアートの方面に繋げていく方もいるでしょうね。

多田 富士見市民には芸達者な方も多く、市民劇に参加してくださったりするのですが、劇場の中だけではもったいないと思っていたんです。もっと劇場と町の接点が欲しかったんですね。

木ノ脇 おかげで私もキラリとの接点が増えました。今では、キラリはうちの『お庭』という感覚です。毎週コンサートのために通ったとしても『すごく仲の良い人のお家』くらいなのに。

多田 それはとても良かったです。『庭』だなんて最高ですよ。

木ノ脇 実は、我が家の子ども達も「キラリは庭」だと思っている気がします(笑)。ACT-Fの発表があれば何度も来てくれ、ほかのメンバーとも顔なじみになって、皆さんに子どもを育ててもらっている感じです。

多田 日常にもっと当たり前のように芸術活動があるといいですね。音楽でも、演劇でも、月に1枚絵を描くのでもいい。そして、劇場や美術館といった文化施設があることで、豊かであり続けられるのが理想です。自分達が活動したり、外から来たアーティストの作品を見たり、一緒になにかできるような、地域にとって身近な場所になるといいですね。でも本来は、アートが身近なものだから地域に文化施設がある、という関係がいいんですけれどね。

 

 

■現・芸術監督 田上豊×ゴスペルブライトサイド 主宰 狩野和世さん

 

──お2人は2020年の市民参加『群読音楽劇 銀河鉄道の夜』で共演されましたね。田上さんは先生役で、狩野さんは作品の“歌姫”でした

田上 『銀河鉄道の夜』では重要な役割になる“歌姫”を探していて、そこに狩野さんが現れたんです。歌の威力に圧倒されましたよ!これまでもずっと「キラリの近辺にいるプロの方々と出会いたいね」という話があったんですが、こうして一緒に作品を作ることができて表現が高まっていく。最高の財産です。

狩野 私も初めてお芝居の中で歌わせていただいて、歌だけのステージとは違うことを実感しました。「作品に入ったな」っという感覚がたまらないですね!実は公演が終わった後に、家に帰って泣いちゃったんです。コロナ禍だったけどやりきった…って。賛否両論はあったでしょうけれど。

田上 わかります。夢だったんじゃないかと思う。コロナ禍の日常の中で、少しの時間だけどどこか違うところに連れていってくれるような幻想的な舞台でしたね。狩野さんという“歌姫”と出会えたことも幸せでした。普段「市民と一緒にやるんだ」と言っていても機会がないと出会えない。でも狩野さんの歌を聞いて、僕が知らないだけで凄い方がゴロゴロいるんじゃないか、僕がスルーしていたんじゃないかとドキッとしました。もっと劇場側からマッチングできる機会を創出しなきゃいけないなと。

 

──狩野さんはいつからキラリを利用されているんですか?

狩野 キラリが建ったばかりの頃からよく子どもと遊びに来ていたんですよ。森があって、水があって、当時はカスケードの中にも水着で入れたんですよね(笑)。地元に音楽スタジオもある素敵な施設ができたのはとても嬉しくて、一般利用ができるようになった15年ほど前からずっと、主宰するゴスペルの稽古場として使っています。子ども達の合唱コンクールがあったり、キラリの公募する企画に参加したり、新春コンサートを聞きに来たり……託児サービスもあるのでフル活用ですね!

田上 嬉しいです。ゴスペルといえば、僕は疲れている時に『天使にラブソングを』を聞くんです。好きなシーンがあって、教会から聞こえる綺麗な歌声に惹かれて女の子達が中を覗いたら、神父さんが「入っていいよ」と言うんです。キラリはそのイメージなんですよ。覗くことはするけど入りはしない方々を、こちらが呼べるといいですね。

狩野 やっぱり文化施設は敷居が高いと感じる方は多いと思うんです。でも、小学校や中学校の合唱コンクールをキラリで開催しているのは良いですよね。子どもの頃から舞台裏を知れる。子どもが取り組みやすい企画もあるし、スタンウェイ(ピアノ)を演奏させてもらえたり、『仮面ライダー』のロケ地にもよくなっていますよね! やっぱり子ども達には文化に親しんでもらいたい。私もゴスペルのコンサートでは、仮装してマイケル・ジャクソンのスリラーを歌ったり、ドレスを着て美女と野獣を歌ったりして、地元の小学生達が聴きにきてくれています。

田上 楽しそうですね! そうやって市民の方が起点になるような活動をされることで地域に広がっていくんですよね。べつに劇場の中には入らなくても、水辺で遊んでらもえるだけでも良いですから。

 

──市民とキラリがどんな関係であるのが理想ですか?

田上 富士見市には、いろんな働き方をしながらアーティスト活動もしている方がたくさんいます。様々なライフバランスの中で、キラリがあるからこそ両輪がとれるようになれたらいいなと思っていて、そのためには地域とキラリが共存していく姿勢を前向きに出していく必要がある。「皆さんも参加できますよ」と言うだけでは届かないから、実際に共同企画を形にしていき、興味がなかった人も「なんか変な場所だな」「面白そうなことをやっているな」とちょっと気になってもらえたら嬉しい。キラリはホールを貸し出すだけでなく、自ら作品を創っていける場所ですから。

狩野 ヨーロッパみたいに、小ぎれいな恰好をして「お芝居を観に行こうかな」と思える場所になっても素敵だし、リラックスして音楽を楽しめるのも良いですね。私はキラリの『サマーコンサート』が好きで、カスケードの上にイスを出して、水辺で音楽を聴くことができる。さらにワインが出ると嬉しいです(笑)。せっかく外が素敵なので、水上舞台や、松明や、夜空の下で演劇が観られる機会もあるといいな。キラリの利用者が集まって一日フェスティバルをやっても楽しそうですね。

田上 アートフェスティバルにはすごく向いているはずです。建物のいろんな場所が使えますから。そこで夜に太鼓の音が聞こえてきたりしたら、お祭りみたいな高揚感が味わえそうです。

狩野 夜祭のイメージはぴったりです! 盆踊りの音に惹かれて、ららぽーと帰りの人が寄ってくださったらいいな(笑)

田上 いいですね。こうやって「こんな使い方はどう?」というアイデアを持つ市民の方がいらっしゃると頼もしくて心強いです。その声を反映させられる劇場を目指していきたいですね。

 

 

■現・次期芸術監督 白神ももこ×生田流正派邦楽会所属 西川江里さん

 

──西川さんは、2002年にキラリが開館してすぐから利用されているそうですね。

西川 お箏を弾くので、2004年の第2回『キラリ☆新春邦楽演奏会』で演奏させていただいたのが最初です。それからは稽古や演奏会で利用するくらいだったのですが、ACT-F 3期(2019年)の募集を見かけて、思わず応募しました! 募集のチラシにあった多田さんの言葉が印象的だったんです。今もメモを持っているんですが…「世界との出会いは自分との出会いでもあります」という言葉が胸に刺さって。仕事も子育ても一段落して、余生をどうしようと自分探しをしていた時期にこれを読んで「まったく知らない自分との出会いがあるかな」という期待を持ちました。

白神 ACT-Fでは皆さんが法被(はっぴ)を作ったり、コーヒーをいれたり、楽器を演奏したり、絵を描いたり…いろんなことをしていましたね。参加者の年齢も様々でした。

西川 一人ひとりに特技があって、今まで接してこなかった個性的な方々ばかりで刺激的でした。最初の頃、幼稚園でおこなう演劇の公演が楽しそうで「道端の石でもいいからやってみたい!」と言ったら役をいただけたんです。それが私の初舞台! まったく演劇に関わった事がなかったので、見るものすべてが新鮮で、1年の最後の発表会も学生時代の文化祭みたいでした。

白神 お祭りみたいですよね。それぞれが自由に過ごしているといつの間にか町ができていく。空間がずっと動いていて、コミュニティが作られていく感じ。人がちょっとずつ集まって、交流が始まって、世界が広がっていく。

西川 たしかに“世界”ですね! 最後の発表会も「お祭りみたいにやろう」と聞いた時には、町内のお祭りのように屋台が並んで踊るものを想像していたんです。でも違っていて、ホールの中のどこで何時に何をやるのかのスケジュールが組まれていて、すべてが繋がってひとつの大きな演劇みたい。お祭りの会場が大きな劇場になっていました。「これがキラリなんだなぁ」と感動しましたね。この凄さは関わってみて初めてわかりました。

白神 公共ホールって普段は短期間のイベントをやるんですよね。でもACT-Fでは、1年間通い続けて活動する。その時間経過もひとつの作品みたいでした。

 

──翌2020年は市民参加『群読音楽劇 銀河鉄道の夜』で主人公ジョバンニの母親役を演じました。振付は白神さんでしたね。

白神 西川さんは安定感がありましたよ。ブレがなくて、いつも前向きなので、なにか困ると西川さんを見てしまう。稽古が続いて皆が疲れてきても毎日楽しそうで、素敵なお母さんでした。その後、市民と創る朗読劇『セブンスター』(2021年10月)にも参加されて演劇を続けられていますね。

西川 そうなんです。『銀河鉄道の夜』の時はお芝居のイロハも知らなかったので、毎日が新鮮で楽しくて稽古場に通っていました。それが実際のホールで本番を迎えたら、照明が素晴らしくて! 今度は照明を勉強してみたいなと『セブンスター』は照明担当に応募したんです。

白神 すごい! 繋がっていくんですね!

西川 興味があることが次々と出てきて、タイミングよくキラリが募集してくれるんです(笑)。いろいろと参加していることで考え方が広がった気がします。これまでの人生でいろんな事をやってきたつもりでしたが、枠から出られていなかったんでしょうね。ACT-Fに参加したことで窓が一つ開いて、新しい風が入ってきました。人脈もできて、ACT-Fでご一緒した方が立ち上げた訪問演劇に参加させていただいたり…どんどん世界が広がっています。

 

──キラリが新しい窓を開くきっかけになるのは嬉しいです。白神さんは芸術監督として、キラリがどういう場所であったらいいなと思いますか?

白神 自然と場が盛り上がるようになるといいですね。それは前芸術監督の多田さんが大事にしていたことで、私はそれをダンスでやれたらいいなと『ダンスの時間』という企画を始めました。言葉が苦手な方も、障がいがある方も、誰でも気軽に来て、体を動かすことで自分の体や他人のことを知る。踊ることに社会的な立場は関係ありませんから。そのうち常連さんができて「ここはこういう場所なんだ」というコミュニティになっていけばいいな。いろんな考えの人がいて、いろんな役割がある…そんなフラットな場所があることが心の拠り所になれば、きっと考え方も柔らかくなる。西川さんのように初めてのことに飛び込むにはきっかけがいるとは思いますが、これまでにない価値観に出会えたらすごく豊かになるはずです。

西川 一度足を踏み入れてみれば身近になるんですけれどね。『銀河鉄道の夜』の時に、出演者もお客さんも広範囲から来てくださって、この作品をきっかけに富士見市やキラリを知ってもらったんだなと実感したんです。キラリの存在の大きさを感じたので、ここを拠点に町が盛り上がっていくといいですね。

 

インタビュー:河野桃子

 

■プロフィール

木ノ脇香織

富士見市在住。県外の中学・高校等で音楽指導をする傍ら、作編曲活動をしている。2016年から19年まで、キラリ☆ふじみリージョナルカンパニーACT-Fのメンバーとして、市内で活動。それを機に、富士見市への興味を深める。

 

多田淳之介

演出家/東京デスロック主宰。古典から現代戯曲、小説、演説、詩など様々なテキストや身体表現を用いて様々な事象から現代を生きる人々の当事者性をフォーカスし、観客の存在を含めたアクチュアルな演劇上演の場を創出する。2008.4~2011.3の3年間、キラリンク☆カンパニーとしてキラリふじみを拠点に活動。2011.4~2019.3まで当館芸術監督を務めた。富士見市在住。

 

狩野和世

ゴスペルブライトサイド主宰。キラリ内スタジオで活動を開始し、来年15周年を迎える。また、開館10周年記念事業、市制施行40周年記念事業『地球のことづて』にてソリストを務め、以降キラリの舞台に多数出演。キラリと共に音楽活動の歩みを進めていると言える。

 

田上豊

劇作家/演出家。2006年、劇団「田上パル」を結成。方言を多用し、軽快なテンポと遊び心満載の演出で「揺らぐ人間像やその集団」を描き出すのを得意とする。2008.4~2011.3の3年間、キラリンク☆カンパニーとして、2011.4~2018.3、アソシエイト・アーティストとして、キラリふじみを拠点に活動。2019.4より、当館芸術監督に就任。

 

西川江里

富士見市在住。自宅にて、楽しくをモットーにお箏の指導をしている。邦楽アンサンブル奏soのメンバーとしての演奏活動や啓蒙活動の一環として小・中学校での体験授業など行う。また、外出できない方々にお芝居を届ける訪問演劇GiFTに所属。

 

白神ももこ

振付家/演出家/ダンサー/ダンス・パフォーマンス的グループ「モモンガ・コンプレックス」主宰。一見シンプルでくだらないとされてしまうことに物事の本質を見出し、馬鹿正直かつパンクに取り組む。2008.4~2011.3の3年間、キラリンク☆カンパニーとして、2011.4~2018.3、アソシエイト・アーティストとして、キラリふじみを拠点に活動。2019.4より、当館芸術監督に就任。

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